あの頃の私
ある時期、私の心と体が思うように動かなくなってしまった時期がありました。
原因は、明確でした。デザイナーとしての長時間のデスクワークによる、首の酷使と慢性的な姿勢の悪さです。画面に噛み付くように向かう日々の無理がたたり、ついに「頚椎(けいつい)ヘルニア」を発症してしまいました。
突出したヘルニアが神経を激しく刺激し、首周りの筋肉は常に過緊張の状態に。血流は滞り、首には重苦しい神経痛が絶え間なく走るようになりました。そして厄介なことに、首の異常は体だけの問題にとどまらず、次第に自律神経のバランスまでも大きく狂わせていったのです。
気がつけば、朝起きてからずっと漠然とした不安に襲われ、何をしても気が晴れない、いわゆる「軽い鬱状態」に陥っていました。体は痛むし、心はついてこない。そんな暗闇のような日々がしばらく続いていたんです。
「このままでは本当にダメになってしまう。どうにかしないと……」
強い危機感を覚え、私はすがるような思いで精神科のドアを叩きました。しかし、そこで提案されたのは、抗うつ薬や精神安定剤などによる対症療法でした。
もちろん、薬が必要な場面があることは理解しています。ただ、私の場合、不調の引き金は「首の酷使」という明確な物理的原因でした。それなのに、強い作用を持つ精神薬で脳の感覚をコントロールすることに対し、直感的に「この処方は危険だ」と感じたのです。根本的な解決にならないどころか、このままでは薬に依存してしまうのではないか、という強い恐れがありました。
「薬に頼るのではなく、別の方法で対処すべきだ」
そう確信し、処方箋には頼らない決断をしました。かといって「気合いで乗り切る」なんて根性論は、痛む首と沈んだ心には到底通用しません。何か、もっと安全に、体の内側から根本的に自分を立て直すアプローチはないだろうか。
そんな限界の状態で、必死に解決策を探し求めるうちに、ふと「栄養」というキーワードが頭に浮かびました。自律神経の乱れや心の不調は、食べているものと直接つながっているのではないか。
深い知識があったわけじゃありません。ただ、切実な思いで手がかりを探し続け、ようやくたどり着いたのが、藤川先生の書籍だったのです。
藤川先生の本との出会い
最初に何を検索したかは、もうはっきりとは覚えていません。「自律神経 栄養」だったか、「不安 首こり」だったか。ネットを行き来しているうちに、ある一冊の本に行き当たりました。
『分子栄養学による治療、症例集』。 著者は精神科医の藤川徳美先生。広島でクリニックを開業されていて、栄養療法に関する本を何冊も書かれている方でした。
中身を見て、最初は少し戸惑いました。書かれていることが、私が今まで聞いてきた「健康の常識」と、だいぶ違っていたからです。藤川先生はこう言います。
「現代人の多くは“質的な栄養失調”の状態にある」
「糖質を摂りすぎ、タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルが足りていない」
「うつや不安、パニック、不眠、こうした不調の多くは、栄養を整えることで改善する」
カロリー制限、バランスのよい食事、薄味、和食中心。そういう常識からは、かなり距離のある主張でした。だから、半信半疑だったんです。本格的にハマったわけでもなく、でも完全に否定する気にもなれない。
ただ、本のなかには実際に治療を受けた人たちの症例が、淡々とたくさん載っていました。うつが軽くなった、パニック発作が出なくなった、過食が止まった。何十、何百という記録が並んでいたんです。
完全に信じたわけじゃない。でも、「これだけ首の痛みと気分の落ち込みに悩んでいるんだから、ちょっと試してみるくらいはアリかもしれない」と、そう思えました。
すがるような思いと、ほんの少しの好奇心。それが、結果的に私を変える第一歩になるとは、その時の私はまだ知りませんでした。
衝撃のナイアシン初体験
本を読み終えて、まず気になったのが「ナイアシン」というビタミンでした。 藤川先生の本のなかで、不安や抑うつに対して特に効果があると、繰り返し書かれていた成分です。ビタミンB群の一種で、B3とも呼ばれます。
iHerbという海外サプリの通販サイトで、Now Foods社のナイアシン500mgを注文しました。藤川先生の本でも紹介されていた、定番の製品です。
到着した日、説明書通りに、まず1錠だけを水で飲みました。「水溶性ビタミンなので過剰摂取の心配は基本的にない」とは書かれていたものの、初めての海外サプリ。少し緊張していたのを覚えています。
そして、15分くらい経った頃でしょうか。 顔がじんわり熱くなってきました。最初は気のせいかと思いました。でも、熱は引くどころかどんどん強くなって、首、耳、頭皮へと広がっていきます。鏡を見ると、顔が真っ赤。チクチクするような、軽くピリピリするような感覚も伴っていました。
これが、ナイアシンの「フラッシュ反応」と呼ばれる現象です。 藤川先生の本にも、確かに書いてありました。
「ホットフラッシュ(顔面紅潮)が起こることがある。少量から始めて慣らしていく」
知識として読んでいたはずなのに、実際に体験すると、想像以上に強烈でした。 ただ、不思議と怖くはなかったんです。むしろ、「身体が、確かに反応している」という感覚がありました。今まで何を食べても何を飲んでも、こんなに身体がはっきり反応することはありませんでした。
20分ほどでフラッシュは引いて、その後はすっと落ち着きました。そしてその夜、緊張しきっていた首回りが少しだけ解け、久しぶりにぐっすり眠れた気がしたんです。
「これは、何かあるかもしれない」 そう思った瞬間でした。
⚠️ ナイアシンを試す前に
ナイアシンのフラッシュ反応は個人差が大きく、人によっては強い不快感を伴います。私のように軽い反応で済む人もいれば、もっと辛く感じる人もいます。本記事は私個人の体験であり、効果や安全性を保証するものではありません。
持病のある方、薬を服用中の方は、必ず医師や薬剤師に相談してからお試しください。また、いきなり高用量を摂るのではなく、少量(500mg以下)から始めることが大切だと、藤川先生の本にも繰り返し書かれています。
そこから広がったサプリの世界
ナイアシンをきっかけに、私の日常に少しずつサプリメントが入ってくるようになりました。
藤川先生の本では、ビタミンとミネラルを「セット」で考える発想が紹介されています。それぞれが補酵素として連動して働くため、単体で摂るより、組み合わせで摂ったほうが効率が良い、という考え方です。 藤川先生はこれを「ATPブースト4点セット」と呼んでいて、鉄・ビタミンB群・ビタミンC・ビタミンEの4つをまとめて摂ることを推奨されています。
私の場合、男性なので鉄は外し、こんな組み合わせから始めました。
- ビタミンB群(B50コンプレックス)
- ビタミンC(1000mg)
- ビタミンE(天然のd-αトコフェロール、400IU)
- マグネシウム(400mg程度)
そして、これらの土台として欠かせないのがプロテインでした。藤川先生は「タンパク質の絶対量が足りていないと、ビタミンやミネラルもうまく働かない」と繰り返し書かれていて、体重×1g以上のタンパク質摂取を推奨されています。
実際に試してみて、特に効果を実感したのが、マグネシウムでした。 夜に飲むと、身体の力がふっと抜けて、ガチガチだった肩や首のこわばりが緩んでいく感覚があったんです。
最初はナイアシン1種類だけだったのが、気がつけば朝と夜に数粒ずつ、いろんな種類のサプリを飲むのが当たり前になっていました。 サプリの世界は、入っていけばいくほど、奥が深いです。 ただ、ひとつだけ言えるのは、自分の身体で試して、自分で判断する。その姿勢だけは、最初からずっと変えていない、ということです。
今の私 — 「自分で考える」ということ
最初にナイアシンを飲んだ日から、ずいぶん時間が経ちました。
今の私はというと、率直に言って、ずいぶんスッキリしています。あの頃のような、朝から続く漠然とした不安や、ひどい首の緊張からくる気分の落ち込みは、ほとんど感じなくなりました。
もちろん、サプリだけのおかげとは思っていません。姿勢を見直し、食生活も少しずつ変わり、生活リズムもあの頃とはだいぶ違います。ただ、栄養という入り口から自分の身体を見直したことが、全体を良い方向へ変えるきっかけになったのは、間違いないと思います。
そして、私と藤川先生との関係も、少し変わりました。 最初は本に書かれていることをそのまま試していましたが、今は藤川先生の主張を「ひとつの考え方」として捉えるようになりました。
栄養療法の世界には、藤川先生以外にもいろんな研究者や医師がいます。考え方も、推奨する方法も、人によって違います。本やネットの情報、YouTubeを見て、自分なりに取捨選択する。そういう距離感が、今の私にはちょうどいいようです。
藤川先生は、私にとって入り口でした。 そして、入り口は入り口として、ずっと感謝しています。 ただ、入った先の道は、自分で歩くしかないんだと思っています。
サプ研で目指すもの
このサイト「サプ研」を立ち上げたのは、あの頃の自分のような人に、何か届けられるものがあるんじゃないかと思ったからです。
病院に行くほどではないけれど、何かが少しおかしい。 気合いで乗り切るのも違う気がする。 でも、何から手をつけたらいいかわからない。
そんなとき、ネットを検索すると、出てくるのは広告ばかり。「これを飲めば◯◯が治る」「これさえあれば大丈夫」。そういう言葉に、正直うんざりした記憶があります。
サプ研で目指すのは、その逆のことです。 エビデンスのある情報を、できるだけ正確に。 個人の体験は、体験として、誇張せずに。 そして何より、読んだ人が「自分で考えて、自分で判断できる」ようになるための材料を、ひとつずつ揃えていきたいと思っています。
サプリは、魔法の薬ではありません。 でも、自分の身体と向き合うための、ひとつの手がかりにはなります。
その手がかりが、誰かの「あの頃」を少しでも軽くできたら、こんなに嬉しいことはありません。
本記事で言及した製品
- Now Foods Niacin 500mg — 私が最初に試した、定番のナイアシン製品
- Now Foods B-50 — ビタミンB群コンプレックス
- Now Foods Vitamin C-1000 — ローズヒップ入り、徐放性タブレット
- Now Foods Vitamin E-400 — Mixed Tocopherols 入り
- Now Foods Magnesium Caps 400mg — 1粒400mgのマグネシウム
参考書籍
- 藤川徳美『分子栄養学による治療、症例集』
- 藤川徳美『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』(光文社新書)
免責事項
本記事は筆者個人の体験を記したものであり、特定の効果や安全性を保証するものではありません。サプリメントの摂取、特に高用量での摂取や個人輸入製品の使用については、必ず医師・薬剤師にご相談ください。持病のある方、薬を服用中の方、妊娠中の方、未成年の方は特に注意が必要です。
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